石川の人気日本酒の秘密「能登杜氏」とは?

石川県には、有名な日本酒や酒蔵が数多くあります。それらの代表的なお酒には、必ずと言っていいくらい、ある杜氏(酒造りの統括指示責任者みたいな人)の存在がいます。それが、『能登杜氏』です。それでは、その能登杜氏とはどんな存在なのでしょうか?

能登杜氏とは?

能登杜氏とは、江戸後期より石川県能登半島の先端に位置する「珠洲市」周辺を発祥とする日本酒造りの杜氏集団です。

このGoogle Mapからわかるように、この地域の内陸部はほぼ山となっており、その影響で、日本海沿岸部は、丘陵地となっていたため、耕作面積が非常に狭く、特産地もほぼありませんでした。(Google Mapで緑になっているところの多くが山間になっています。)

そこで、農業の閑散期には、近畿地方へ出稼ぎに行くようになった。これが、能登衆と呼ばれる。その出稼ぎ先が、畿内地方(特に、山城や近江が多かった)ということもあり、明治時代には、大津に「能登屋」という杜氏や蔵人の職業斡旋業者が設立されるようになった。

また、明治政府の殖産興業の推進によって、鉄道ができたことによって、近畿地方だけでなく、東海地方などにも出稼ぎ先は広がっていった。

なぜ江戸後期に能登杜氏が生まれたのか?

年号制限期/奨励期出来事
1657年(明暦3年)〜1735年(享保20年)制限期・寛文の寒造り
・延宝の寒造り以外の禁
・元禄の酒株改め
・運上金の導入
・享保の大飢饉
1754年(宝暦4年)〜天明6年(1786年)奨励期・享保末期の大豊作(米価の下落)
・勝手造り令
1788年(天明8年)〜1801年(享和元年)制限期・天明の大飢饉
1804年(文化元年)〜1829年(文政12年)奨励期・文化文明の大豊作
・勝手造り令
1830年(天保元年)〜1844年(弘化元年)制限期・天保の大飢饉

上の年表は、江戸時代の酒造りの統制と奨励を表したものとなっています。ここで、注目してもらいたいのが、「1804年(文化元年)〜1829年(文政12年)」です。実は、この時期は、農業が豊作となる年が多く、商人に、買い置きを命ずるほどの年もあったほどでした。その影響もあってか、創業する酒蔵は全国的に見ても非常に多くなり、出稼ぎを受け入れる酒蔵が増えたことで、出稼ぎをする杜氏や蔵人が増えたと考えられます。(ちなみに、江戸幕府の財源にも影響を与える米相場は、豊作の場合は、酒造りを推奨し、不作の場合は、酒造りに制限をかけるなどして、米価の安定を図った。要するに今でいう、金利の引き上げや引き下げのようなもの)

世界で活躍する能登杜氏

その後、昭和に入ると能登杜氏は、全国各地に赴くようになりました。昭和の初めには、北は、北海道、南はシンガポールの酒蔵にまで及ぶようになりました。その当時の能登杜氏として登録していた人数は、昭和2年に、能登杜氏402名、蔵人1644名にまでになりました。

平成に入ると、「珠洲市」と姉妹都市を結んでいたブラジルのペロタス市へ、農口尚彦(現在:農口尚彦研究所)と故天保正一(喜多酒造元杜氏)、道高良三(松井酒造杜氏)が赴いて、山田錦と五百万石を栽培し、日本酒の製造が始まった。そう考えると、能登杜氏は、全国規模というよりももはや世界規模で活躍している杜氏といますね。

能登杜氏四天王とは?

現在、能登杜氏には、四天王と呼ばれる4名がいます。

農口尚彦(現:農口尚彦研究所)

吟醸酒造りの先駆け的存在で、伝統的な山廃仕込みを受け継いでおり、彼が作る山廃仕込みのお酒は、キレがあるのに濃厚な日本酒が特徴です。また、多くのコンクールで受賞があり、「現代の名工」や「黄綬褒章」などの受賞もある。また、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演。以前は、鹿野酒造で杜氏を行っており、「常きげん」や「KISS of FIRE」などを手がけていたが、現在は、農口尚彦研究所で、彼の酒造りの技術を後世に受け継ぐために、それを研究している。

代表日本酒:「KISS of FIRE」「常きげん


三盃幸一(桝田酒造店:満寿泉)

吟醸酒への飽くなき探究心が生み出した日本酒は、全国の評議会からも高評価を得ている。その味わいは、華やかな吟醸香と旨味が特徴的で、日本酒初心者でも、美味しいと言えるものが多い。

代表日本酒:「満寿泉

中三郎(車多酒造:天狗舞)

天狗舞で有名な車多酒造の杜氏。天狗舞でもある「山廃仕込み」の製法を確立。彼の作る日本酒は、酸と旨味のバランスが絶妙で、うるさい雑味がなく、どんなお食事でも合わせられるのが特徴。なお、「現代の名工」も受賞。

代表日本酒:「天狗舞

波瀬正吉(土井酒造場:開運)

杜氏の神様と称された波瀬正吉さん。面白いのが、先述の農口尚彦さんとは、小学校の同級生である。自分の名前を日本酒の名前にするという先駆け。なお、2009年に逝去。

代表日本酒:「開運

最後に

金沢に旅行に行った際などは、能登杜氏が作った日本酒を探して、飲んでみてはいかがでしょうか?

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